東京高等裁判所 昭和57年(行コ)231号 判決 1983年5月31日
東京都文京区小日向三丁目一〇番一〇号
控訴人
塩見寛道
右同所
控訴人
塩見まつ子
右両名訴訟代理人弁護士
石橋護
東京都文京区春日一丁目四番五号
被控訴人
小石川税務署長
黒岩虎一
右指定代理人
小田泰機
同
鳴海悠祐
同
塚本晃康
同
石津延
同
山本高志
右当事者間の昭和五七年(行コ)第二三一号所得税更正処分取消請求控訴事件につき、当裁判所は、次のとおり判決する。
主文
本件各控訴を棄却する。
控訴費用は控訴人らの負担とする。
事実
控訴人ら控訴代理人は、「一 原判決を取り消す。二 被控訴人が控訴人らの各昭和四八年分所得税について昭和四九年一〇月三一日付けでそれぞれなした更正及び過少申告加算税賦課決定を取り消す。三 訴訟費用は、第一、第二審を通じ被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴人指定代理人らは、控訴棄却の判決を求めた。
当事者双方の主張及び証拠の関係は、次の一及び二に付加、補正するほか、原判決事実摘示のとおりであるから、これをここに引用する。
一 補正
原判決五枚目表二行目の「下」を「もと」と改め、同裏七行目の「約束手形」の次に「二通」を、同八枚目表三行目の「原告らが」の次に「反論2において」を、同一一枚目表四行目の「主張しているが、」の次に「仮にそうであるとしても、」を各加え、同七行目の「できなくなった」を「できないこととなった」と、同末行の「被告所部係官」を「小石川税務署所得税調査担当係官」と、同一二枚目表八行目の「原告本人尋問」を「控訴人寛道本人尋問」と各改める。
二 当審における控訴人らの補充的主張とそれに対する被控訴人の答弁
1 (控訴人ら)
控訴人らが本件配当金請求権を放棄したのは従前主張のとおり昭和四九年九月一五日のことであるが、仮にその時期が異なるとしても、控訴人らが本件配当金を現実に受領しなかった以上、本件処分は違法である。
すなわち、本来国民の納税義務は、担税力のある経済的利益を取得した者に対し公平、平等に負わせるべきものであり、法律上財産権を取得した場合でも、本件のように実質上担税力の増加となる経済的利益を現実に取得しなかったときは、所得があったとすべきではないから、控訴人らが本件配当金を現実に受領しなかった以上、本件処分は、控訴人らに現実に収入がないのに課税したことになり、租税法律主義にも租税公平負担の原則にも違反するものであり、ひいては、憲法一四条、二九条にも違反することになる。権利確定主義を金科玉条とすることなく、現実の収入金額を補促することが、租税制度運営上、より適正、明確である。
2 (被控訴人)
右1の主張は争う。
理由
当裁判所も、本件処分に控訴人ら主張の違法はなく、控訴人らの本訴請求は棄却すべきものと判断するものであるが、その理由は、次の一及び二に付加、補正するほか、原判決理由説示のとおりであるから、これをここに引用する。
一 補正
1 原判決一七枚目裏四行目の「甲第九号証、」の次に「甲第一〇号証の三、」を、同六行目の「成立の認められる」の次に「乙第八号証、」を、同一八枚目表一行末尾に「(役員賞与一一九四万八〇〇〇円については、次期欠損補填のための留保金に振替えて負債から除外されている。)」を、同一〇行目の「主張したが、」の次に「放棄書を作成したのは昭和五〇年一月下旬ころと思う旨の」を各加え、同末行の「同年」を「昭和四九年」と、同裏四、五行目の「行った被告所部係官」を「行い配当所得についての修正申告等を慫慂した小石川税務署所得税調査担当係官」と各改め、同一九枚目裏三行目の「乙第二三号証の一及び二」の次に「、弁論の全趣旨により成立の認められる乙第二四号証」を、同二〇枚目表一行目の「みなされる」の次に「(所得税法一八一条二項参照)」を各加える。
2 原判決二〇枚目裏六行目の「債権の切捨て」を「債務の切捨て」と改め、同二一枚目表六行目の「念のため」を削り、同所に「また、同じく右基本通達六四-一で準用する同通達五一-一二は「貸金等につき、その債務者の資産状況、支払能力等からみてその全額が回収できないことが明らかになった場合」の貸倒れ処理を定めているので、右の場合に当たるか否かについて、」を加え、同八行目の「並びに」の次に「同本人尋問の結果により成立の認められる」を加え、同一〇行目の「及び乙第一七号証」を「、乙第一七号証及び乙第一九号証」と改め、同二二枚目裏一〇行目の「日新の」の次に「昭和四九年三月期の決算報告書によれば約八三二二万円の、また」を、同二三枚目表三行目の末尾に「現に前掲三ツ石二郎の証言によれば既に仮決算上債務超過となったという昭和四八年一二月末現在においても、固定資産を処理する前提で評価すれば正味資産四億円余が残る旨の試算も日新の帳簿書類上なされている。」を、同七行目の「状況」の次に「、あるいは同通達五一-一二にいう「回収できないことが明らかになった」というべき状況」を、同一〇行目の「できない」の次に「し、また同通達五一-一二の定めも適用の余地はない」を各加える。
3 原判決二三枚目裏一行目の「また、」を削り、同所に「もとより、如上の検討において前提とした所得税基本通達は、税務行政の執行上の基準を示したものにほかならず、本件処分の当否は、究極的には関係法令に照らして決せられるべきことはいうまでもないが、右に掲げた同通達の各定めは、所得税法の正当な解釈に基づき、これを補充して適正な課税を実現するための基準として、相当と認められ、」を加え、同二四枚目表一〇行目の「被告所部係官」を「小石川税務署所得税調査担当係官」と改める。
二 当審における控訴人らの補充的主張について
控訴人らは、要するに、控訴人らが本件配当金を現実に受領しなかった以上、本件処分は、控訴人らに現実に収入がないのに課税したことになり、租税法律主義にも租税公平負担の原則にも違反するものであり、ひいては憲法一四条、二九条にも違反することになると主張する。
所得税法が、所得を構成する収入がどの年度に帰属するかを決定するに当たり、現金収入主義ではなく、発生主義のうちの権利確定主義を原則として採用した(三六条一項)ゆえんは、課税に当たって常に現実収入の時まで課税できないとしたのでは、納税者の恣意を許し、課税の公平を期し難いので、徴税政策上の技術的見地から、収入すべき権利の確定した時をとらえて課税することとしたものであり、そして、同法は、権利の確定的発生の後に回収不能が生じた場合には、所得のないところに課税した結果となる不都合を避けるため、一定の要件のもとに所得計算の特例(六四条)又は更正の請求(一五二条)という調整措置を設けているのであって、同法が権利確定主義を採用したことも、右調整措置の適用を受けるための要件として同法の定めるところも、いずれも不合理なものとはいえず、立法政策の問題にすぎない。したがって、控訴人らが本件配当金を現実に受領しなかったとして求めた所得税法六四条一項の所得計算の特例の適用が、同条項に定める「回収することができないこととなった場合」という要件を充足しないことを理由に認められなかったからといって、本件処分が租税法律主義や租税公平負担の原則に違反することにはならないし、まして憲法一四条、二九条に違反するものでないこというまでもない。
してみれば、控訴人らの主張は失当というほかない。
よって、控訴人らの請求を棄却した原判決は相当であって、本件各控訴はいずれも理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担につき、行政事件訴訟法七条、民事訴訟法九五条、八九条、九三条一項本文を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 横山長 裁判官 野崎幸雄 裁判官 水野武)